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そのネーミングセンスに異議あり!

文:W.KOHICHI





マドの町の酒場。マリアの忘れ形見・タダカツとその仲間・ハンフリとジェーンとポチは、束の間の休息を味わっていたのであったのじゃ。
タダカツとジェーンはカウンタでドリンクを飲み、ハンフリはギャンブルマシンに向かい、犬のポチは、タダカツの足元でわんわんグルメにかぶりついておった。
まったりとした時間が流れておった……と、みんなも思っているとタダカツは思っていたのじゃが、ジェーンが何か言いたげにしているのに気が付いたのじゃ。
ジェーンの目はなんとなく澱んでおり、ちょっと思い詰めたような感じでさえあった。
気になったタダカツは、それとなく尋ねてみる事にしたのじゃった。
「どったのジェーン、なんか目が死んでるけど」
「うっさいよ! って、もうちょっとは遠まわしにお聞きよ! 直球過ぎるんだよ!」
「ああゴメンゴメン、で、何か考え事?」
「まあ、ね……」
ぼそりと呟いたジェーンは、グラスに注がれたステロイドサワーをぐっと飲み干したのじゃ。
「あたしたちもさ、結構強くなったと思わないかい?」
「ん? ……まあ、そうかもね」
「カネだって結構貯まってる。そんな事はしないけど、今ハンターをやめてもこれからの人生なんとか過ごせるくらいだ」
「何が言いたいのさ」
グラスのドーパミンソーダをちびちび飲みながら、タダカツが問い質しおった。
「クルマの事さ」
「……クルマが何か?」
「ああ」
「改造にお金掛け過ぎたとでも?」
「いや、それじゃないよ」
「じゃあ事実上サウルス砲の一発屋になっちゃってるクルマが不満?」
「それでもないよ」
「じゃあ何が不満だってのさ……ごんざえもんは良いクルマだよ」
「それだよ!」
「え。……それって? 何が」
「クルマの名前だよ!」
「名前が、何か?」
「ああもう! あたしはそのごんざえもんって名前に不満があるのっ!」
「………」
「………」
妙な沈黙が流れおった。
やがてタダカツが口を開きおる。
「そんな事か……」
「いや、結構重要な事だと思うんだけどね」
「どうして」
「あんたのセンスを疑うって言ってんだよ」
「あの古式ゆかしい名前の何が不満だってのさ?」
「あんたもスカタンなことを言い出すんだね。気に入らないものは気に入らないのさ」
「そんな事言われてもなあ……」
「あたしもつい最近知ったんだけど、なんでも車の名前は変えれるそうじゃないか?」
「そうだね。ある町でやってるサービスだよ」
「じゃあ早速変えに行こうよ。善は急げさ」
「だからどうしてさ。変える必要性が見当たらないよ」
「あたしが乗ってるクルマだ、それくらいの口は出せるんじゃないのかい」
「もともと僕のクルマだ、名前も含めて僕に権利があるはずだ」
「………」
「………」
今度は気まずい沈黙が流れおった。
「……ええい! ちょっとハンフリ! 何かこいつに言っておやりよ!」
「ああ?」
ハンフリはギャンブルマシンから離れて、カウンタに座ったのじゃった。
「クルマの名前だって? 別になんだっていいじゃねえか」
「あんたは自分の乗ってるクルマの名前に不服はないのかい」
「ああ、結構気に入ってるぜ、チンチロリン」
「あんた、それはおかしいって! チンチロリンなんて名前でいいのかい?」
「まあ仮におかしいにしろ、俺はタダカツに付いて行くって決めたからなあ。タダカツの言う事に不服はないぜ」
「ええい〜、このナンセンス共が……!」
タダカツはそんなジェーンを面白そうに見ていたが、やがてグラスの酒を飲み干し、言いおった。
「分かったよ。そんなに不服なら、1回だけチャンスを上げるよ」
「……それは……名前を変えてもいいって事かい?」
「そうだよ」
「よおっし! 言ってみるもんだね」
「じゃあ善は急げだ、早速変えに行こう」



場所は移って、バザースカの町。
「で、どんな名前なら良いのかな?」
「そうだね〜、やっぱり格好良くて、それでいて可愛らしさを含んだ、戦車とあたしに似合った名前がいいねえ」
うきうきしている様子を隠せないジェーンであったが、そのうきうき感はすぐひっくり返される事となるのじゃった。
「じゃあ考えてみて。10秒上げるから」
「じゅ……!? ちょっと、短すぎるって!」
「あと5秒」
「お、お待ちよ! えーっと、えー」
「さーん、にーい、いーち、……はい時間切れー。親父さーんこのクルマの名前を変えたいんですけどー」
「おう、どんな名前に変えるんだ?」
「『ププッピドゥ』でお願いします」
「ちょっとー!?」
あまりといえばあまりなネーミングに驚愕と絶望を隠しきれないジェーンであった。
「はいよ! ……よーし、これでこれからこのクルマは『ププッピドゥ』だ!」
「ありがとうございます。……はい、ジェーン、名前変更済んだよ」
「………」
「あれ? ジェーンさーん?」
ふるふる拳を震わせるジェーン。そしてその顔が上がった時、その目は剣呑な光を放っておったのじゃった。
「殴らせろ! あたしの気の済むまで殴らせろ!!」
「よーしハンフリ、ポチ、逃っげろー!」
「よっしゃー!」
「ワオーン!」
「……待てコラぁぁぁ!!」

荒れ果てた大地を、3人の若人と1匹の犬が駆け抜ける。
この3人と1匹がいずれ世界を救うのであろうか?
それはまさに神のみぞ知る事。
だが、まあ、その前に、彼らの行く手に幸あらん事を望むものじゃ。



<終>




後書き
会話文を除く地の文を、胡散臭い老人口調で語ってみました。しかしあまり愉快ではありませんでしたね。今度からもうやりません。
謙遜ではないのですけれど、私は昔からネーミングセンスというものがありませんでした。無論今でもありません。
より正確には、自分ではいい名前と思った名前が、他人から笑われるという事が実に多かったため、自信を失くしてしまったというのが真相です。
『メタルマックス2』の実際のプレイでは、もうちょっとマシな名前を付けているつもりですが、やっぱり自信はないですね。
とは言え、格好いい名前というのはあらかた使われてしまってますから、いろんなところから拝借するという手もあるのですが。
でも出来るだけ、たとえ格好悪かろうとも、自分で考えた名前をつけてあげたいものだと思っています。


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