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前略、親愛なるシルヴィア先輩。
僕はエトリアからの長い旅を経て、遂に新たなる冒険の地、ハイ・ラガード公国へ辿り着きました。
ここで僕もシルヴィア先輩に負けないくらいの、強力で有名な冒険者になってみせます。
……ですが、
その道程はいろいろな意味で険しいようです……。




「こんなはずじゃなかったのに……」 〜 逞しく生きろ若者 〜

文:W.KOHICHI




初めまして。僕の名はフランシス、新米パラディンです。
しかし、僕と直接の関係はないのですが、僕はかのエトリアで勇名を馳せたギルド“プロキオン”から派遣されてきました。
プロキオンはハイ・ラガードでも有名だったらしく、僕はあちこちで話題になっていたプロキオンの噂を聞く度、身の引き締まる思いをしたものです。
ですがここ、ハイ・ラガードではプロキオンもただの新規ギルド。僕はまず有志を集める事から始めなくてはなりませんでした。
そこまでは順調、シルヴィア先輩から教わった手順通りだったのですが……。



 シルヴィア先輩の教え、其の一「編成は良く考えろ。7職業から上手く5人選べ」

エトリアでのプロキオンのメンバー編成は前衛3人・後衛2人だったらしいです。僕は取り敢えずその真似から始めてみました。
でもいきなり躓いたんですけど、職業、7つじゃなくて11あるんですが。
そういえば聞いた事がある……シルヴィア先輩が駆け出しの頃は、ブシドーとカースメーカーがいなかったって……。
しかもガンナーとドクトルマグスなんて聞いた事のない職業が存在しているし。
編成に悩みましたが、基本形と教えられたブシドー、レンジャー、メディック、アルケミスト、そしてパラディンの僕の編成で行く事に決めました。
しかしこの時点では、僕はこのパーティー編成に潜む恐ろしい魔に気付いていなかったのです……。



 シルヴィア先輩の教え、其の二「メディックは外すな。医術防御は最強」

さて仲間を揃えて、いざ出陣! ……の前に、スキルの割り振りをしなければ。
……あれ? これって何……? 各自にパラメータブースト……?
え、ひょっとしてエトリアとシステム違ってる?
いきなりシルヴィア先輩から教わったのと違う展開。戸惑ってしまった僕はメディックのリデルさんに詳しい話を聞いてみる事にしました。
「あのう、リデルさん、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「まあまあ、なんですか? 私でお役に立てるなら」
「これ……どうやってスキルを順序立てて上げていけばいいんでしょう?」
「あら、そういう事は貴方の方が詳しいと思っていましたが」
「いえ、僕も新米なもので。助言、いただけますか?」
「そうですねえ……後衛の私やナタリーさんならマスタリーにキュアや火の術式でしょうか。前衛の方々ならSTRやAGIのブーストでしょうね」
「そうですか。そのうちリデルさんには医術防御は是非欲しいですね」
「なんですかそれ?」
「はい?」
「いいえ、その……医術防御? というものは何なのかと」
「え……医術防御ってないんですか!?」
「はあ、聞いた事もありません」
「ええ〜!!」
話が違うじゃないですか先輩! うわ、ひょっとしてハイ・ラガードではエトリアの常識って通じない!?



 シルヴィア先輩の教え、其の三「アルケミストの火力を充実させるに如くはなし」

シルヴィア先輩の教えが一部か全部か通じないような気がしてきて不安になってきました。
取り敢えずパーティーのもう1柱のつもりで入れたナタリーさん(アルケミスト)に、アルケミストの心得を聞いてみます。
「あのう、ナタリーさん、ちょっといいですか?」
「……なんだ? 手短かにな」
「アルケミストの強化のポイントって、どんなところだと思います?」
「お前の方が詳しそうな感じがしてたがな。私の意見を参考にしたいのか?」
「はい、まだまだ新米なもので」
「そうだな、まずはなんでもいいから術式を1つ。あとはTPやTECブーストに割り切るのがいいだろう」
「ブーストが先ですか? マスタリーや術式の強化は?」
「そんなの先にやったらすぐにTP切れがオチだ。TECも低けりゃ術式のダメージも見込めないしな」
「そうですか……」
「何がっかりしてんだ?」
「いえ、別に。しっかりします」
「まあ、頑張れや、リーダー」



 シルヴィア先輩の教え、其の四「今日のレベルアップは明日を楽にしてくれる」

基本は大体分かってきたつもりです。いよいよ樹海に探索に出掛けました。
でも先輩の教えも捨て切れなかったので、僕のスキルは盾マスタリー、フロントガード、バックガードの3つでスタートです。
アリシアさん(レンジャー)やファラウスさん(ブシドー)は最初っからSTRブーストに全部掛けてます。
……その差は顕著でした。
僕がもたもたしている間に、アリシアさんとファラウスさんが連携して上手い事敵を倒してしまいます。
フロントガードもバックガードも使っている場合ではなく、それよりは攻撃した方が良いという事態です。
別に誰も僕を責めませんが、あまり良い雰囲気ではありませんでした。
シルヴィア先輩の教えが全部役に立たなかったわけではありませんでした。リデルさんの博識はアイテム集めに役立ったし、ファラウスさんの一撃は流石ブシドーの一言でした。
ただ、僕だけが浮いている気がしないでもなかったです。
先輩……時代の流れは結構早かったみたいですよ……。



あれから暫くして、僕は1軍メンバーを自ら外れ、良い言い方をすれば影のリーダーとして頑張ってます。
スキルポイントの割り振りに頭を悩ませ、できる限り効率的な強化を皆にできるようにしています。
シルヴィア先輩、時代は変わりました。これからはプロキオンの名を背負ってではなく、新規1ギルドの1メンバーとして頑張っていきたいと思います。
1人はみんなのために、みんなは1人のためにを合言葉に、これからも努力していく所存です。



<終>


後書き

今回は実に事実に基づいた話になってしまいました。これは序盤にしか通用しない事である可能性は否定できないんですが。
こんなにシステム変わったとは予想外も予想外ですよ。今7階にいるんですけど、メディック以外はソードマン、レンジャー、ブシドー、ガンナーと肉弾戦パーティー。
話の面白さとしては今一つかなとは自分でも思いますけど、ギャグの介在する余地がなかったんです。
まあ、たまにはこういうしんみりした話もありという事でお願いします。次回はもっと面白い話になるように精進したいところではありますが。


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