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〜 クリスマスタイム 〜 泣いてなんかいませんよ

文:W.KOHICHI





「……クリスマスですよ、シルヴィアさん」
「あ?」
「ですからもうすぐクリスマスなんですってば」
「何よニーナ。あなたクリスチャンだったの」
「いえ、違いますけど……」
「じゃあクリスマスは特に関係ないでしょう」
「……何か御予約は?」
「ないわよ。何もないわよ。クリスマスだろうとダンジョンの探索とモンスターの討伐よ」
「えー……」
「『えー』じゃないよ、別にいいじゃない、クリスマスにダンジョンに潜ってたって」
「風情がありません……」
「そんなのいらないわよ」
「………」
「何かしら? 言いたい事があるならはっきり言ってちょうだい」
「お休みが欲しい……クリスマスにみんなで忘年会も兼ねてパーティーを開きたい……」
「忘年してどうするの。ダメ」
「………」
「だけど、そうだね……正月に新年会ならやってもいいよ」
「それだとロマンスがない……」
「はぁー? ロマンスぅ? ニーナ、あなたうちに何を求めてるんのかしら」
「だからロマンスに溢れた素敵なクリスマスを……」
「却下の理由を幾つか挙げてあげましょうか。その一、私たちは冒険者集団である」
「冒険者だって休暇が欲しい時もある」
「だから新年会ならやるって」
「クリスマスじゃないと嫌……」
「理由その二、うちには8人の人間がいるけど、男は3人しかいない。数で釣り合わない」
「数なんて問題じゃない……偉い人にはそれが分かってない」
「何言ってるのよ? じゃあ理由その三、うちにいる男は変人のレオンと朴念仁のアンリと奇人のイチノジョウしかしない」
「………」
「さ、分かったら諦めなさい。明日も探索だからね」
「自分がロマンスと縁遠いからって酷い……」
「そんな安い挑発には乗らないわよ」
「イヴの夜を切なく過ごすからって酷い……」
「あなたもしつこいわね……」
「未だに男の一人もつかまえられないからって酷い……」
「あ、あなただって男いないでしょう?」
「……フッ」
「こ、この女郎……」
「図星だったんだ……」
「……! 引っ掛かったか……」
「ね、だから、クリスマスパーティーを」
「ダメよ」
「………」
「新年会ならやってあげるって言ってるでしょ。何が不満なのよ?」
「クリスマスにはその時しか味わえないモノがあるから……」
「仕方ないわねえ。じゃあニーナ、クリスマスにはあなたは出撃メンバーから外してあげるから、クリスマスは自由に過ごしなさい」
「……シルヴィアさんは?」
「私は出撃だよ。打撃力が欠けるわけにはいかないからね」
「他のみんなは?」
「出撃か待機だよ。何かあるかもしれないからね」
「そんなんじゃつまらない……」
「あなたも結構わがままねえ。そんなに我が強いとは思わなかったわ」
「だって一年に一度のクリスマスだもの……」
「しょうがないなあ、じゃあプレゼントも付けてあげるから、それで我慢してちょうだいな」
「プレゼント?」
「世界樹のコート買ってあげるよ」
「………」
「何よ……不満そうね。世界樹のコートは最高級品よ」
「それ、防具だもん」
「防具じゃ嫌なのかしら」
「もっと日常的に使えるものがいい……革靴とか、普通のコートとか」
「我が侭もいい加減にしなさいニーナ。そろそろ私もキレるよ?」
「……分かった、もういい」
「よし。まあ来年か再来年あたりにはパーティー考えてあげてもいいから、それを楽しみにしてるといいよ」
「………」
「ほら、行った行った。そんな目をしてたってもう譲らないよ」
「はーい……」

「……くすん」



<終>


〜 小ネタ 〜

「次回作発売決定! シリーズ第3弾『諸王の聖杯』!」
「今作が第1弾だってのに、なんで次作が第3弾なんだこの……ド低脳がァーーッ!!」




後書き

『世界樹の迷宮』ネタにかこつけて、クリスマスの悲哀を謳ってみました。
私としてもこの歳になってクリスマスという伴天連の祝祭を祝うつもりはないのですが、クリスマスが楽しみな時代もあったなあという懐古を込めて書きました。
子供時代なんてあっという間だなあ……皆さんもすぐですよ?


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