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覚悟はいいか、俺はできてない

文責:W.KOHICHI





「おい」
「何」
「洗い物しろよ。お前が当番だろ」
「もうやったよ」
「まだ鍋が残ってたよ」
「あー、うん」
「なんでお前はいつも洗い物すると鍋だけ残すんだよ」
「実はおじいちゃんの遺言で……」
「遺言で?」
「ギャンブルとヤクには手を出すなって」
「鍋洗いはギャンブルでもヤクでもないだろ! っていうかその遺言普通の事だろ!」
「えーと、普通じゃない遺言はちょっと受けた事ない」
「そういう意味じゃないよ、普通の事言ってるって事だよ」
「おじいちゃんもアレだね、もうちょっとウィットに富んだ遺言遺してくれたらよかったのにね」
「そりゃ、どんな遺言だよ」
「『人類は滅亡する!』とか?」
「使い古された上に大した事のない内容。15点」
「手厳しいなあ」
「ていうかお前おじいちゃんいたの?」
「それは勿論石から産まれる事ができない以上、人と人から人は産まれるよね」
「そうじゃない、お前に遺言を託すようなじいちゃんはいたのかという意味だ」
「それはいないね」
「つまりはいないのかよ!」
「うん」
「……まあいい。話逸れたな。鍋洗えよ」
「鍋?」
「鍋」
「鍋って10回言ってみて」
「なべなべなべなべなべなべなヴぇなヴぇなめなめ」
「あ、エロい」
「エロくない! っていうか言いにくいよ! 10点!」
「あれ、さっきよりは面白くなくね?」
「どこがだよ」
「君の舌足らずなところが」
「俺は面白くないよ」
「だろうね」
「分かってるのかよ!」
「うん」
「ああ、そう……」
「じゃあさ、『なめ』って10回言ってみて」
「……『なめ』?」
「うん、『なめ』」
「……なんか響きが卑猥だからイヤだ」
「んー、残念」
「鍋洗えよ」
「まだ覚えてたんだ」
「やっぱ意識的に話逸らしてたのかよ! 鍋洗え、鍋!」
「鍋ってかさばって重いんだよね」
「だからなんだよ」
「洗いたくない」
「洗え」
「買おうよ自動食器洗い機」
「そんなカネはない」
「ケチー」
「ケチじゃない、カネがないの」
「じゃあ仕方ないね、手で洗うしかない」
「おう、鍋洗えよ」
「………」
「何、その沈黙は」
「代わりに洗ってくれない、鍋」
「誰が?」
「君が」
「ふざけんな! だから今日はお前が当番だろうに!」
「It's impossible」
「アホかっ!」
「今のはちょっと格好良く決めたつもりだったのに……」
「お前は根本的にアホなんだよ」
「だよね〜」
「認めんなよ!」
「だから、鍋洗えない」
「あー、もう……洗え」
「ごめんなさい……僕が悪い子だから……」
「かわいこぶってもダメ」
「お駄賃あげるから」
「カネで釣ってもダメ」
「お駄賃ちょうだい」
「ダメに決まってるだろ!」
「おだんち!」
「なんだそれは!?」
「ちょっと卑猥な響きだったかな」
「その前に意味不明だよ。5点」
「意味なんかないからね」
「ああそう。……鍋洗えよ」
「じゃあいつか念力で鍋を洗えるようになるよう努力するよ」
「いや、今、腕を使って洗えば済む」
「それならいつか悪魔を召喚して鍋を洗ってもらえるように修行するよ」
「いや、今、腕を使って洗えば済む」
「だったらいつか弥勒菩薩が降臨するまでに鍋を洗うよう精進するよ」
「いや、今、腕を使って洗えば済む」
「………」
「………」
「分かったよ……鍋洗うよ……」
「分かればよい」
「この鍋洗いが終わったら、僕、結婚するんだ……」
「鍋洗いごときに死亡フラグを立てんなっ! 0点!」



<終わり>


後書き

「じゃあさ、『なめ』って10回言ってみて」
「……『なめ』?」
「うん、『なめ』」
「なめなめなめなめなめんなめんなめんめんめんんん……言えねえ!」
「滑舌わるーい」
「うるせえ!」

基本的には一発ネタ師なんですよね自分。目前のネタには集中できるのですが、長期的な展望は苦手としております。
今回のこれはアパートでの2人暮らしのコンビの会話を想定なんかしてみました。ちょっと面白くしてありますけど、基本的なジャンルは「日常」ですかね。
某投稿サイトでこんなのばっかり書いていた一時期がありました。今にして思えばうちのサイトででもよかったかなーと思わないでもないです。後悔はしていませんが。

4月13日追記:
「う」に「濁点」の「h」が、ブラウザで表記できない事を受けて、「h」を「ヴ」に改訂しました。


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