戻る


「空気って読めないかな、君?」

文:W.KOHICHI





「知っているかな……? 『4月は残酷な季節』と言った詩人がいる……」
「お前は何を言ってるんだ」
地下16階。流砂に流されながらベアトリスが唐突に意味不明な事を言い出した。
あんまり唐突だったから、私のツッコミも今一つ決まらない。勿論私も流砂に流されているところだ。
「そもそも、今、6月だろう」
「ああ……ええ……」
なんとか持ち直して適切なツッコミを入れる事ができた。どことなく気まずそうにベアトリスが応える。
……しまった! 『気まずい空気』だ! 今敵と遭うと攻撃パラメータにマイナス補正が掛かってしまう!(注:ゲーム中にそのようなバステはありません)
「そ、それは一体どういう意味なんでしょうか?」
おずおずとメルフィナが突っ込んだ。我々はまだ流砂に流されている。足場に辿り着く前にこの空気を祓わねば!
「意味は特にないの。ただ決めてみたかっただけ」
……最悪の返答だった。この分だと『重い空気』も加わって命中率にもマイナス補正が掛かるな……。(注:ゲーム中にそのようなバステはありません)
「だーめだ、こりゃー」
レオンがやや大袈裟な身ぶりでフォローを試みてくれた。しかしその目は果てしなく投げやりだ。私には分かる。
ポニカは沈黙している。メルフィナはおろおろしている。当のベアトリスは泰然自若としていた。殴りたい。斧で。
……そうだ、私にはヘッドバッシュがあるじゃないか。これで頭封じしてしまえば或いは……。
と、流砂が流れ切って、どこかについた。
「ようし……ベアトリス!」
「何かしら?」
「ちょっとそこでじっとしてろ」
「嫌です」
「いいから!」
「おおい、シルヴィア! 後ろー!」
あん? 後ろ?
振り向くと、間近にうごめく毒樹が迫っていた、って……!
「うわああ!」
「このっ!」
「燃えろぉ!」
私のヘッドバッシュ、ポニカのダブルショット、レオンの火炎の術式が同時に敵に叩き込まれた。呆気無く崩れ落ちるうごめく毒樹。
「……青眼の構え」
「遅いんだよ!」
ブシドーはこれだから……。ああ、これで『白けた空気』まで加わって防御にもマイナス補正が……。(注:ゲーム中にそのようなバステはありません)
「糸あるし、今日は帰る?」
「そうだな……そうしようか。お腹も空いたし」
「えー」
「空気最悪だし!」
というわけでエトリアに帰る事になりました。

宿屋で説教タイム。一部を抜粋してお目に掛けたい。恥ずかしいけど。
「お前さんは空気を読めなさ過ぎる。毎度毎度変な空気に包まれるパーティーメンバーの事も考えなさい」
「そんな……私はかっこいい台詞でぱーてーの士気を高めようとしているだけなのに……」
「逆効果だからね、思いきり。っていうか、あれはそんな事考えてたの?」
「シルヴィア、今のツッコミどころは『ぱーてー』だと思うわ」
「黙っててよポニカ! ベアトリス、お前はもう思ってる事口に出すの禁止!」
「私は菌類じゃないわ」
「は?」
「それは菌糸な」
「また分かりづらいボケを……そういうのを口に出すなと言うのよ!」
「分かってないわねシルヴィア……ブシドーはかっこ付けてこその職業なのよ」
「何言ってるのよ! 初耳よそれ」
「『また詰まらぬものを斬ってしまった』から始まるブシドーの美学を分かってもらえないのは残念ね」
「私にはお前さんはただふざけているだけにしか思えないんだけどね……」
「シ、シルヴィアさん、落ち着いてくださいよ。怖いですよ」
「落ち着く? 私は落ち着いているよ。いつでもスタンスマッシュを決められるくらいに」
「それは落ち着いてないだろう……シルヴィア、こいつはこういう奴なんだから。分かってんだろ?」
「いい事言うわねレオン。亀の甲より年の功ね」
「黙れ同期の桜」
「あーもうレオンとポニカも黙る! ベアトリス! 次に変な事言って空気変えたらヘッドバッシュかますからね!」
「………」
「返事は!?」
「はいはい」
「『はい』は一度!」
「はい」
「よし! 解散! 就寝!」
「はいお疲れー」
「お疲れさま」
「お疲れさまでしたー」
「お疲れさまでした」

翌朝。
「た、大変ですシルヴィアさん!」
「うー……何よ、朝っぱらから……」
「ベアトリスさんがいません! そしてこんな書き置きが!」
「な……なんだって……? 貸して!」

   『立ち止まる事は許されない。そう、愛故に。
    意味はないわ。でもどんなに空虚でも、決め台詞は私のアイデンテテー。
    盗んだポニーで走り出す、止まり方も分からないまま。それが私の生きざまよ。
    いつか最強になって見返してやるんだから。
    取り敢えず斬鉄剣でステルス爆撃機を両断できるように頑張ります。
    でもこんにゃくを斬るのだけは勘弁ね。刀がアレだから。
    じゃあ、またいつかきっと』

「………」
「………」
「メルフィナ……これはどこまで本気だと思う?」
「決意だけは伺えると思います……」
「私はそんなにベアトリスを追い詰めてしまったのか……?」
「シルヴィアさん……」
「あら、どうしたのかしら」
「ポニカさん! ベアトリスさんが!」
「ん? ベアトリスが?」
「出ていってしまったみたいなんだ……」
「は?」
「私も言い過ぎたのだろうか……もうちょっとあいつの気持ちを」
「ベアトリスなら、洗面所で歯を磨いてたけど?」
「………」
「………」
「どうして出ていったとかいう話になって、あ、ちょっと、シルヴィア? どこいくのよ?」
「シ、シルヴィアさん、目が怖いですよ、何するつもりですか」
「んん? なんでもないわよ? ちょっとベアトリスに会いにいくだけ」
「いや、ちょ、待ってくださいよ、そんな」
「やめなさいメルフィナ、今止めたらあなたが死ぬわよ!」
「え、ええ!?」

 ………。
 …………。
 ……………。

「このアホンダラがァーッ!!」
「ぎぃえー!?」

「……どうしましょう?」
「今日は活動中止ね……」
「おい、朝から騒々しいぞ。なんなんだ」
「レオン……私たち、引き際はわきまえましょうね」
「ああ?」



<終>


後書き

今回は空想全開のお話でした。発案は「名言・迷言を連発したがるブシドー」というキャラクターを思い付いた事から始まりました。
私の感想では、ブシドーは今一つ使いづらいところがありますね。青眼の構えよりも上段の構えを修得させた方がよかったかなあ。
ダークハンターと交代で使ってますけど、どっちもどっち、という感じですね。
あと休養はともかく引退はよく考えてやった方がいいですね、当たり前ですけど。


戻る