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文:W.KOHICHI








釣りバカクラフトソード物語

(C)バンプレスト・フライトプラン







「ねえ、何してんのよ、あんた……」
不機嫌さと不満さが半分ずつ混ざったような声で、ディナが聞いてきた。
だけどその質問が良く分からない。私が何をしているかなんて見れば分かるはずなのに。
「聞こえてんの? 何してんのよ、あんたは……」
また聞いてきた。今、あまり話し掛けてほしくないのに。
あ、引いてる引いてる……。
「ちょっとあんた!!」
「わあ!」
あ−、逃げられちゃった。
「ディナ! 驚かせないでよ。獲物に逃げられたじゃない!」
「ああ、そ。ふーん」
「あっ、酷! 酷いよディナ!」
「てゆーかあたしはあんたの方が余程酷いと思うけどね。……質問に答えなさい。あんた、何やってんの?」
「何って……釣りだけど?」
「うん、質問が悪かったわね。あんた、自分の置かれた立場を分かってんのかしら」
「……どういう意味?」
「言わせたいの?」
ディナは下等生物を見るかのような眼差しを作って、吐き捨てるようにこう言った。
「釣りなんかしてる場合かッ!、って言いたいのよ」
「そんな! 釣りなんかって! 私の心のオアシスなのに!」
「あんたってバカよね、心の底からバカよね」
「な、なによ……」
「いい?」
ディナは私の顔の両側をがしっと掴み、目を覗き込んで言う。
「今、この村の置かれている状況を言ってみなさい」
「え、ええと……古のゴウラが復活しようとしている危機的状況です」
「その原因を作ったのは誰かしら?」
「わ、私です」
「村で吊るし上げを喰らったあんたを助けたのは誰?」
「ディナです……」
「よーし、良く覚えてたわね。ではもう一度聞くわ、あんた今何してんのよ?」
「……釣り……」
「はぁ……」
ディナは私を解放すると、両腕を肩まで挙げて掌を上に向けるポーズをとった。
所謂「やれやれだぜ」のポーズだ。
「分かった?」
「え。あの……あの……」
「………」
ゴスッ! ゴスッ!
「痛い、痛いよディナ! 蹴らないで蹴らないで!」
「あら、私の中のあいつがついやってしまったみたいね」
「あの子そんな事しないよ! 明らかに今のディナがやってるよ!」
「うっさいから黙りなさい」
「はい」
うう……。
「あのムカつく天使の奴だって、呆れてちっとも出てこないありさまなのよ?」
「な、なんで?」
「魔刃集めなきゃいけないあんたが、釣りばっかしてっからよ」
「そーなのかー」
「………」
バキィッ!
「ディナ痛い! 石持って殴らないで! ホントに痛いから!」
「知ってる? こういうのは殴った方も痛いのよ……」
「ごめんなさいごめんなさい! 何が悪いか分かんないけどごめんなさい!」
「何が悪いってあんたの存在自体が悪いわよね……」
本気で酷い……。
「村のためにも、あんたを庇ったあたしのためにも、魔刃集めないと面目が立たないでしょ」
「うあ、うん……」
「あんただって、途中でケツまくったと思われたくないでしょ……頑張りなさいよ」
「そうだね……」
「そうよ」
「ディナ……私の事そんなに考えてくれてたんだ……」
「ハッ、どう思おうと構わないけど、そう思ったならあたしのために頑張りなさい」
「ディナ……! そうか、そうだね!」
そうだ、私にはやらなくてはならない事があった……!
2つも……!
「よし! 分かったなら早速探索に出るのよ!」
「うん、もう1回だけ釣りしてからね」
「ロマンチックボム!!」
カッ!



<終わり>


後書き

毎日釣りを楽しんでいて、「このゲームの楽しみ方間違ってるよね」と思っていた事がきっかけでした。
幾らミニゲームだからって、災厄が復活しようとしているのに、オッケーとか言って釣りしている場合じゃないだろという。そういうのはクリア後のお楽しみにするとか。あんまり釣りしていると親方がやってきて怒られるとか。
1回だけ、釣りの景品がストーリー進行に必要になったのは不満でしたね。ミニゲームはミニゲームで切り離してほしかった。
まあ、あれだけ釣りを楽しんでおいて、批判できる立場でもないのですけど。
白状しますと、今でも楽しんでます。あはは。
………。



2010/03/22 誤字修正


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