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DS文学全集 プレイ記念雑感

文:W.KOHICHI


厳密にはゲームではなく、データベースソフトとでもいうべきモノ。
一般には読書ソフトとして紹介されており、そちらも決して間違った表現ではないが、私の見るところでは本を集めたものに留まっていないので、データベースソフトと号する次第である。
DS本体を縦に持つ一種独特の形態でプレイ(?)する。

最も有用にして素晴らしい点は、あらすじを大まかに流してくれる機能が付いている事であろう。
メンタル面での不調などで厚い本を最後まで読み切る事ができず、結局読破できないという事になってしまったという事態を、誰もが一度は体験しているのではないだろうか。
そんな人たち(私もその一人)のために誂えたような機能があらすじ機能。これはその本の内容を簡略に筋だけ追ったもので、それでいてどういう内容なのかが分かりやすく呑み込めるようになっている。
これで「タイトルは知っているけど実は内容はさっぱり分からない」という現実から、一段上へ上がる事ができるというもの。
あらすじを見て本文に興味が出ればなお望ましい事は言うまでもないが、あらすじを見るだけでも充分と言えよう。

唐突だが、私のDSは旧型である。画面が暗めで、手に取るとやや重い。
買う前は、このDSで読書などできるのだろうかと不安もあったが、実際にプレイしてみたところその心配は杞憂であった。
画面の明るさはどうしようもないが、文字の大きさの調節が可能(「大きい/小さい」の二段階だけだが)で、フォントもしっかりした輪郭で読みやすい。
老眼が入ってきた私の母親に読みやすいかどうか聞いてみたが、画面が暗いとは言われたものの、フォントを大きくしたところ問題なく読めるようであった。
勿論私も読むにあたって全く差し支えなく読めている。

収録本数100冊は確かに多いが、短編も結構多いのでまずは短編から、というのがオーソドックスな読み方ではないだろうか。いきなり夏目漱石の長編に挑んでも一向に問題ないが。
どれを読んだものやらさっぱり分からない時は、適当な設問からその日の気分に見合った本を選択してくれる機能が付いているのでそれを参考にすれば良い。
表紙である程度中身を察する事のできる売り文句が付いているので、それを充てにするのも良いだろう。

本を読んでいて、気に入った部分があった場合、そこを何度も読み返す手段としては、栞を挟んでおく他に、ページ数を覚えておいてタッチペンで一気に本をめくる、という現実さながらの事もできる。
現実の本でも「確かここら辺に……」という感じで本をパラパラめくる、という行為をした事がある人も多いはず。それとほぼ同じ感覚の事ができる。
栞を挟んでおくのが確実と言えば確実だが、数に制限があるのである程度は自分の記憶力を試される事にもなる。とはいえそれは現実の本でもある事であり、そう苦ではないはずだ。

純粋に文学を追求しているところが、長所であり短所でもある。例えば挿し絵はない。少しでもあれば雰囲気が華やいだかもしれない。
また、長編を読んでいるとバッテリー残量が心配になってくる。心配になるだけではなく実際に心許ない。そのために栞があるとはいえ。
Wi-Fiで新しい本をダウンロードできるのは良き試み。ただ通信環境のない人にはつらい仕打ちではある。そういう人は大型店舗にあるDSステーションに行くしかないわけだ。更に言うと、ダウンロードしたデータにはあらすじがなく評価も下せない。
同様にランキングも通信環境のない人には利用できない。こちらは大して障害にはならないと言えばならないのだが……。
以上のような弱点はあるものの、読書・データベースソフトとしては文句のない出来である。

以下は私的な事であるが、個人的に面白かったものを挙げてみたい。
芥川龍之介は全般的に良かったと思う。新美南吉や宮沢賢治なども良かった。その他には横光利一などか。太宰治や夏目漱石は面白いのとそうでないものの差があるように感じた。
読書環境としては、BGMに“ジャズ喫茶”や“公園”などを主に流していた。“寝台列車”はなんだか眠くなる気がした。


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